取り扱い上の注意
ステンレス鋼の防錆性は、表面の不動態皮膜に依存するため、これが還元により破壊される要因に注意を要する。オーステナイト系ステンレス鋼は硫化水素や塩素イオンなどの塩化物イオンを含む高温高圧環境に曝されると、水素脆化による応力腐蝕割れを起こすことがある
。ステンレス鋼は純鉄に比べはるかに酸化されにくい(電位が高いという)ので、他の鋼や異種金属と接続すると電蝕を起こす。ステンレスの流しに空き缶やヘヤピンをおくと極端に銹びるのは、このせいである。電気温水器はステンレスであるから、鉄管で接続すると約10年で鉄管が破裂する。ステンレス鋼においても他の金属と同様、錆は錆を呼ぶ。錆は不動態皮膜に比べて遥に不安定であるため、水道水などに含まれる鉄錆が定着することが要因となって、錆が進行する(もらい錆)。ステンレス鋼は普通鋼に比べて強度が高いが、構造用に用いるとクリープを起こすことがあり、注意を要する。また、オーステナイト系ステンレス鋼の一部は特定の環境下で応力腐食割れ (SCC) を起こすことがあるため、それを嫌う場合はフェライト系ステンレス鋼を用いるべきである。特にオーステナイト系ステンレス鋼は熱伝導性が低いうえに熱膨張率が大きいため、高温環境下での使用には、設計上十分に注意する必要がある。また、切削や溶接時にも独特の温度管理が必要になる。なお、450℃近辺では、鋼種によってはCrが析出することで耐食性や機械性能が低下することがあるので、この温度域での使用は注意が必要。オーステナイト系ステンレス鋼は伸びがよく、絞りや張り出し成形性も高いため、複雑な形状を作ることができる。加工硬化があるので、これを留意した設計をする必要がある。フェライト系ステンレス鋼はオーステナイト系に比べると伸び性能が劣るため、特に張り出し成形には注意が必要となるが、加工硬化は比較的小さい。なお、マルテンサイト系ステンレス鋼ではこうした加工は難しい。ステンレス鋼は全般的に切削性が悪く、旋盤やマシニングセンタなどで切削加工する場合、鉄や銅、アルミニウムと比べ、被削面の塑性変形による加工硬化が大きい。そのためセレンやリン、硫黄などを加えた快削材も利用される。オーステナイトとフェライトの二相組織を持つ二相ステンレス鋼では強い耐蝕性を持つが、400℃以上の環境では脆化を起こすことがあり、使用環境の温度には注意が求められる
[和田要著 『スチールの科学』 裳華房 1993年10月20日第1版発行 ISBN 4785385855]。