ポルトランドセメント
発明
「ポルトランドセメント」という名称のセメントを発明したのは、英国リーズ(Leeds)のレンガ積み職人のアスプジン (:en:Joseph Aspdin|Joseph Aspdin) であるとされている。1824年10月21日付英国特許第5022号に「Portland Cement」という名称が初めて見られる。"cement"というのは、糊というほどの意味であるが、それに"Portland"を付したのは、硬化した後の風合いがイギリスの:en:Isle of Portland|Isle of Portland(ポルトランド島)で採れる"Portland limestone"に似ているからであった。日本では、1875年に当時工部省技術官だった宇都宮三郎が国産セメントの製造に成功している。
[http://c-pc8.civil.musashi-tech.ac.jp/RC/class/rceng/rceng_pdf/h18/cement_aggregate.pdf]ポルトランドセメントを構成する物質
ポルトランドセメントを構成する主な物質は、ケイ酸カルシウム|ケイ酸三カルシウム(エーライト;3CaO・SiO
2)、ケイ酸カルシウム|ケイ酸二カルシウム(ビーライト;2CaO・SiO
2)、カルシウムアルミネート(アルミネート;3CaO・Al
2O
3)、カルシウムアルミノフェライト(フェライト (磁性材料)|フェライト;4CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3)および硫酸カルシウム(セッコウ;CaSO
4・2H
2O)である。エーライト、ビーライト、アルミネートおよびフェライトは「クリンカー」と称する中間製品として製造される。つまり、酸化カルシウム(CaO)、酸化ケイ素(SiO
2)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)および酸化鉄(Fe
2O
3)が、クリンカーの主要化学成分である。ポルトランドセメントの製造にはもっぱら天然の原燃料を使用するので、実際には、上記化合物は純粋なものではなく、少量成分を固溶している。そこで、クリンカー中の化合物は「クリンカー鉱物」と呼ばれている。中間製品のクリンカーに適量のセッコウを混合・粉砕して商品としてのセメントが製造される。エーライトとビーライトはいずれもケイ酸塩であるから、両者をまとめて「シリケート相」と称する。また、アルミネートとフェライトはクリンカー中でシリケート相の間隙部に存在するため、まとめて「間隙相」と称する。それぞれのクリンカー鉱物は、水和反応速度、強さの発現性、水和熱などの性質が異なる。このような性質の異なるクリンカー鉱物の組成を変化させ、さらに、セッコウの添加量、セメントの粉末度(比表面積値)などを変化させることによって、物性の異なる種々のポルトランドセメントを製造することができる。具体的には各々のクリンカー鉱物は、以下の性質を有する。;エーライト
:中等度の水和速度を有し、初期および長期の強さ発現性に優れる。水和物は中等度の化学的抵抗性と乾燥収縮を有する。
ビーライト
:水和速度が遅く、初期強さの発現性に劣るが、長期にわたり水和を継続するため終局強さには寄与する。水和熱が小さく、化学的抵抗性および乾燥収縮性状にも優れる。
アルミネート
:水和速度が非常に速く、初期の強さに寄与するが、長期強さへの寄与は小さい。水和熱が大きく、化学的抵抗性および乾燥収縮性状にも劣り、ビーライトとは対照的な性質を持つ。
フェライト
:水和速度、強さ、水和熱、化学的抵抗性、乾燥収縮性状のいずれにおいても中等度であり、他の3つのクリンカー鉱物に比べると特段の特徴がない。しかし、この鉱物が生成するように設計することにより後述のクリンカーの焼成において、エーライトの生成温度を下げることが可能となっており、セメントの経済性に寄与する役割を果たしている。なお、クリンカー鉱物の名称に関しては、興味深いエピソードが伝えられている。A.E. Toernebohm(テルネボーム)は1897年にストックホルムで開催された国際材料試験会議にてクリンカーの光学顕微鏡観察の結果を報告し、クリンカーがアリット(エーライト)、ベリット(ビーライト)およびこれらを取り巻く間隙から成ることを初めて報告したとされている。間隙については組織が微細で詳細がわからなかったため、セリット(シーライト)とされた。これらは、非常に単純なルールで命名された。すなわち、アルファベット"A"、"B"、"C"と鉱物名であることを表す接尾語"-lite"を組み合わせただけのものである。ある化学組成を有するクリンカー中に存在するクリンカー鉱物の理論組成(ポテンシャル)は、1920年代にR.H.Bogueにより考案されたBogue式によって求めることができる。Bogue式では与えられたクリンカーの化学組成における化学量論組成のクリンカー鉱物および無水セッコウの生成反応の平衡状態を仮定する。無水セッコウの生成を仮定するのは、クリンカー焼成の際に用いる燃料(もっぱら石炭)に由来する酸化硫黄(SO3)が少量存在するためである。実際の商業クリンカーは完全な平衡状態に達しておらず、少量(1%以下)の未反応の遊離酸化カルシウム(フリーライム;f.CaO)を含有している。また、原料に由来する少量成分はクリンカー鉱物に固溶し、あるいは上記とは異なる鉱物を生成する。例えば、SO3は通常の含有量(1%以下)であれば無水セッコウではなく、アルカリ硫酸塩を生成する。そのため、実際のクリンカー鉱物組成はBogue式により求まるものとは異なると考えられている。しかし、クリンカーの化学組成を代入するだけで簡便に鉱物組成を求められる利点は他の定量方法には代え難い。そこで、各国の国家規格等では品質を担保するためにBogue式により得られる特定のクリンカー鉱物量に上限または下限を規定している場合がある。クリンカーにセッコウを添加してポルトランドセメントとするのは、アルミネートと水との反応を抑制するためである。セッコウを添加しないポルトランドセメント(つまり、クリンカー粉末)では、アルミネート単独での水和により急結または瞬結が生じる。ポルトランドセメントが発明された当時はセメントにセッコウを添加していなかったため、製造後にセメントを意図的に風化させてこの反応を抑制していた。セメントにセッコウを添加すると、接水によりアルミネート粒子表面に水和物の一種であるエトリンガイトが生成し、アルミネート単独での水和反応が阻害される。このようにして、フレッシュなコンクリートはプラスティックな状態を保つことができる。