セメント【ポルトランドセメントの製造工程】

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ポルトランドセメントの製造工程


現在の日本国内のセメント工場は、全て乾式サスペンションプレヒーター付ロータリーキルン(回転窯)方式でポルトランドセメントを製造している。この方式は現在世界で最も熱効率・生産性に優れたものである。他の歴史的な製造方式としては、シャフトキルン(竪窯)方式、湿式ロータリーキルン方式などがある。世界的に見ればこれらの既にあまり効率的でない製造方式もなお健在であるが、以下では日本国内の製造方式に絞って工程を記述する。ポルトランドセメントの製造工程は(1)原料工程、(2)焼成工程、(3)仕上工程の三つに大きく区分される。

原料工程


クリンカーの主原料は、石灰石、粘土、ケイ石および鉄原料である。これらを乾燥し、焼成後に目的の化学成分のクリンカーが得られるよう混合・粉砕するのが原料工程である。通常、乾燥が必要なのは粘土に限定され、他の原料はドライヤーを通過しない。ドライヤーの後段で粘土以外の原料が所定の割合で合流し、原料ミルに入る。原料ミル(ボールミル)で混合・粉砕された原料はブレンディングサイロに入る。ブレンディングサイロは複数あり、異なる時間帯に調合した原料を仮貯蔵する。最後に、これらの異なる時間帯に調合した原料どうしを再度混合して化学組成の最終的な調合を行い、ストレージサイロに貯蔵する。主要原料はクリンカーの主要成分を高濃度で含有しているのに対し、クリンカーの主要成分の濃度は主要原料のそれよりも低い。つまり、セメント工業は原料を適度に混合し「純度を下げる」プロセスである。この点は、石油化学工業、精錬|金属製錬工業など多くの化学工業が「純度を上げる」プロセスであるのとは対照的である。原料の化学成分の管理には、「モジュラス」と呼ばれる通常三つで1組の指標を使用する。製造しようとするセメントの品種(物性)および生産性を考慮して目標モジュラスを設定し、これを維持するよう原料の化学成分を管理する。モジュラスはセメントメーカーによっては「(化学)係数値」、「諸率」などとも呼ばれる。モジュラスが3つで1組となって運用されているのは、主要原料が4つであるからである。モジュラスの3つの条件と「焼成後の質量が合計で1トンとなる」ことを条件とすれば、四元連立方程式の解として原料原単位を決定できる。日本のセメント工場では水硬率(Hydraulic Module;HM=CaO/(SiO2+Al2O3+Fe2O3);単位はmass%(以下同じ))、ケイ酸率(Silica Module;SM=SiO2/(Al2O3+Fe2O3))および鉄率(Iron Module;IM=Al2O3/Fe2O3)が主に用いられている。 水硬率HMはモジュラスの中で最も重視される指標である。HMが大きいほどクリンカー中のCaO量およびエーライト量が多くなる。そのため強さ発現性は高まるが、一方で焼成反応性が低下する。クリンカーの焼成反応性が低下すると燃料原単位が増大し、製造コストの増大につながる。また、クリンカー中にはf.CaOが未反応のまま残存するようになる。現在の日本国内の普通セメントのクリンカーのHMは2.0〜2.2である。ケイ酸率SMが大きいと焼成を円滑に進めるために必要なクリンカー融液(焼成工程の項で詳述する)の量が少なくなり、焼成温度は高くなりがちである。その結果、焼成設備を損傷し易くなる。しかし、クリンカー中のSiO2量が増しビーライトに富むクリンカーとなるので、低発熱性で長期材齢での強さに優れたセメントが製造できる。一方、SMが小さすぎると融液量が多くなるので、キルン内壁のコーティング量の増加による原料の閉塞(「コーティングトラブル」)の懸念がある。現在の国内の普通セメントクリンカーのSMは2.4〜2.8である。鉄率IMが大きいとAl2O3量が増えてアルミネート量が増加するため、初期材齢での強さの発現性が高まるが、化学抵抗性の低いセメントとなる。現在の国内の普通セメントクリンカーのIMは1.9〜2.1である。石灰飽和度(Lime Saturation DegreeまたはLime Saturation Factor;LSD=100CaO/(2.80SiO2+1.18Al2O3+0.65Fe2O3))はHMの代わりに用いることがある。SiO2、Al2O3およびFe2O3と結合できる最大のCaO量を1.0とする指標である。日本国内の普通セメントクリンカーでの標準的な値は0.92〜0.96である。LSDが1.0を超える場合、焼成温度を高くしても焼成時間を長くしてもf.CaOが残る。また、品位の低い石灰石を使用するセメント工場では、MgO量も考慮して石灰飽和度を管理することがある。活動係数(Activity Index;AI=SiO2/Al2O3)はSMと同様の指標である。現在の日本国内の普通セメントクリンカーでの標準的な値は3.8〜4.2である。LSD以外の指標は、R.H.Bogueによる鉱物組成のポテンシャル計算が考案される以前からセメントの製造に用いられており、現在に至っている。

焼成工程


焼成工程では調合原料を焼成しクリンカーを製造する。石灰石、ケイ石、粘土および鉄原料の混合物は化学反応を起こし、水硬性を有するクリンカー鉱物に変化する。焼成工程では熱効率を高めつつ焼成反応を完結させる(クリンカー中のf.CaO量を少なくする)ことに注意が払われる。原料の加熱方式には、サスペンションプレヒーター(SP)方式またはニューサスペンションプレヒーター(NSP)方式と呼ばれる2種類がある。前者では4段ないし5段のサイクロンを上下に連結し、ロータリーキルンのバーナーから供給される燃焼排ガスにより原料を予熱する。後者ではキルンのメインバーナーだけでなくSP最下段部にも仮焼炉があり、ここで原料の加熱を積極的に行い石灰石の脱炭酸を促進する。現在、NSP方式は熱効率と生産性に最も優れた加熱方式である。燃料には微粉炭を使用するのが一般的である。ストレージサイロに貯蔵された原料はプレヒーター上段より投入され、プレヒーター下段(上流側)からの熱風により予熱される。各ステージで熱交換してプレヒーター下段に到達すると1000℃前後で仮焼され、石灰石の脱炭酸が進行する。次にロータリーキルンの最高温部(焼成帯)で1450℃以上の温度で焼成され、ここで原料どうしの最終的な化学反応(クリンカー鉱物の生成反応)が進行する。このとき、焼成物の一部が融液となり造粒が進む結果、塊状のクリンカーとなる。クリンカーはバーナー下を通過するとクリンカークーラーに落ち、直ちに冷却される。

クリンカーの融液はクリンカー鉱物(特に、エーライト)の生成反応を促進し、塊状物を形成するために有用である。焼成時の融液の割合は液相度LP(融液量;percentage Liquid Phase)で表現される。適切な液相度は15〜25%とされている。焼成後のクリンカーを急冷するのは、ビーライトの常温安定相への転移を防ぐためである。ビーライトにはいくつかの多形がある。高温で安定なα型、α'型およびβ型は水硬性を有するが、γ型は水硬性を持たない。また、高温型からγ型へ転移する際には「ダスティング」と呼ばれるクリンカーの粉化現象が生じ、クリンカーのハンドリングが困難となる。クリンカー焼成反応を完結させるために理論的に必要なエネルギーは、原燃料およびクリンカー鉱物組成により異なるが、標準的には400〜420Mcal/t-cli.と言われている。実際の国内セメント工場における熱量原単位は750Mcal/t-cli.前後となるので、燃焼系統の廃熱を原料工程での乾燥に用いるなど、エネルギー効率の向上が図られている。

仕上工程


仕上工程ではセメントのSO3量および比表面積値が目標通りとなるようにクリンカーを石膏とともに粉砕し、粉末状のセメントを製造する。石膏に関しては、諸外国では天然石膏を使用する場合が多いが、日本では良質な天然石膏に恵まれないため副産石膏、特に、排煙脱硫石膏が使用されている。石膏の種類は二水塩が基本である。

粉砕に用いる設備は粉砕機(ボールミル;仕上ミル)と分級機(セパレーター)である。クリンカーと石膏は粉砕助剤とともに仕上ミルに入って粉砕され、次いでセパレーターに導入される。セパレーターの中では回転翼が回転している。空気流に乗った粗い粒子はこの回転翼により叩き落とされるが、微細粒子はここを通過することができる。回転翼の回転数を制御することにより、所定の粒度で粉砕物を分級できる。このようにして*回収された微粉が最終製品のセメントである。粗粉は再び仕上ミル前段に戻される。セメントの製造に限らず、粉砕という単位操作はエネルギー効率が極めて低い。投入されるエネルギーのうち、実際の粉砕(新しい表面の生成)に寄与する割合(有効粉砕仕事)はわずかに1%以下とも言われる。セメントの粉砕を効率よく行うことは、セメント製造原価低減のために極めて重要である。そのため、現在では粉砕助剤としてジエチレングリコールなどを用いて効率の向上が図られている。また、粉砕のために投入されたエネルギーの大半は熱に変換される。そのため、製造直後のセメントをそのままセメントサイロに貯蔵すると、サイロ内で二水石膏が脱水しセメントが固結するおそれがある。そこで、製造直後のセメントはセメントクーラーで熱交換してからセメントサイロに貯蔵する。日本で製造されるセメントの75%はポルトランドセメントで、残る25%はポルトランドセメントをベースとした混合セメントである。混合セメントのJIS規格としては、JIS R 5211:2003「高炉セメント」、R 5212:1997「シリカセメント」およびR 5213:1997「フライアッシュセメント」が規定されている。それぞれ混合材料として高炉スラグ、天然シリカ質混合材およびフライアッシュが用いられる。これらの混合材料は仕上工程でクリンカーおよび石膏とともに混合粉砕または分離粉砕されてセメントに混合される。高炉スラグは製鉄所の高炉で銑鉄1tにつき300kg発生する副産物である。潜在水硬性(アルカリ刺激により水硬性を発現する性質)を有し、硬化体の耐海水性を向上させる。天然シリカ質混合材はポゾラン反応性(セメントの水和にともない生成する水酸化カルシウムと反応し水和物を生成する性質)を有し、水密性の高い密実なコンクリートの製造に有用である。フライアッシュは火力発電所のボイラーで発生する石炭灰の微粉部分である。天然シリカ質混合材と同様なポゾラン反応性を有するとともに微細な球形を呈するため、コンクリートの水密性および流動性を改善できる。ポルトランドセメントに混合材料を混合することは原則として認められていない。ただし、普通ポルトランドセメントに限っては、5%を上限として品質に影響が及ばない範囲で混合材料およびセメント製造用石灰石を混合することが認められている(JIS R 5210:2003「ポルトランドセメント」)。

Quotation:Wikipedia - Article - History  License:GFDL

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